チベタン・マスティフの基礎情報
・日本語表記:チベタン・マスティフ
・英語表記:Tibetan Mastiff
・原産地:中国・チべット
・発生:自然発生
・種類:使役犬
・サイズ:大型犬(65~80cm)
・体重:オス64kg~82kg、メス61kg~72kg
チベタン・マスティフの性格・特徴
チベタン・マスティフは、チべットの僧院で飼育されていた犬種で、そのためか思慮深い表情をしているところが独特な印象を受ける犬種です。
チベタン・マスティフの性格
チベタン・マスティフは、元々は勇敢で物怖じしない性格でしたが、近年では温厚な個体が増えています。
体が大きく迫力がありますが、外見に反し普段は穏やかな性格をしています。護衛犬の名残から、保護意識が旺盛で、独立心と防衛本能があります。
聡明ですが、頑固で意志が強く、親しみやすい犬種と比較すると、人に対してよそよそしい態度を取ります。
チベタン・マスティフの特徴
チベタン・マスティフは全体的に骨太で筋肉質な、大型犬を超える大きな体の持ち主です。
個体によっては、100kgを超えるほどの大きさです。
力強く重量感があり、かっぷくがよくどっしりとしています。
幅の広いがっしりとした頭部をしていますが、表情は攻撃性を感じさせず、穏やかな印象です。
中国では「富の象徴」であった時期も
チベタン・マスティフは、中国の富裕層に人気があり、過去には「富の象徴」とされるほど高価な犬種でした。
通常でも80万〜100万円ほどで、個体によっては1,000万円を超えるほどでした。過去には2億円の値がついたこともある犬種です。
しかし、流行を理由に購入したチベタン・マスティフを、飼育しきれなくなったことでチべット高原に捨てることが頻発し、社会的な問題になっています。
その数、何万頭ものチベタン・マスティフが、野生化しチベット高原をうろつき、地域の生態系などに影響を与えています。
2014年には、「ガングリ・ネイチョク研究・保護センター」が立ち上がり、捨てられたチベタン・マスティフおよび他の動物たちの保護活動をはじめています。
チベタン・マスティフの毛色・目の色
チベタン・マスティフの毛色は、リッチ・ブラック、ブラック・タン、ブラウン、さまざまなシェードのゴールド、グレー&ブルー、グレー&ブルー&タンがあります。
タンは濃いシェードのものから、薄いものまで幅があり、胸にみられるホワイトのスター(斑)、足にある極小のホワイトマーキングも許容されます。
目の上や脚の下部、尾の裏側にタンマーキングがあり、目の周りにはスペクタクル・マーキングがみられます。
首周りは長くて厚い被毛をしており、その特徴から、「獅子型」「虎型」などにタイプ分けされています。
口元の皮膚がたるんでいることから、よだれが多い犬種です。
よだれをそのままにしていると、口元の皮膚が皮膚炎になったり、匂いの元になるため、口元あたりの被毛は常に清潔にしてあげましょう。
目の色は被毛の色と調和が取れており、薄い毛色の場合は明るい色です。通常目の色は毛色よりも濃い色をしています。
チベタン・マスティフの鳴き声
チベタン・マスティフの鳴き声は、迫力のある太いうなり声です。
冒険家で商人でもあったマルコ・ポーロが記述した『東方見聞録』には、チベタン・マスティフの鳴き声を、「ロバのように高い声と、ライオンのように力強い声」と表現されています。
警戒心が強く、子犬のうちからでも、見知らぬ人が近づくと低い唸り声で威嚇することがあるといわれています。
近年では、気質が温厚になって来ていますが、番犬としての名残が強いため、警戒心の強さには注意しましょう。
吠えることがあっても、飼い主の静止命令によって、鳴き止ませることができるように訓練することも大切です。
子犬の時から、なるべく多くの人に可愛がってもらい、少しでも人が好きな性格になるように育てましょう。
チベタン・マスティフの寿命・病気
チベタン・マスティフの寿命は、10歳から12歳前後で他の超大型犬の寿命と比較すると長命です。
長命の理由は、この犬種が遺伝性の疾患が少ないことが挙げられます。しかし、体が非常に大きいため、関節疾患には注意が必要です。
股関節形成不全:股関節が正常に形成されず、歩行に異常が現れる疾患。大型犬の成長期に発症することが多い疾患です。チベタン・マスティフは、成犬になるまでが比較的ゆっくりだといわれています。
オスは4年、メスは2年〜3年かかります。成長期が長いことになりますので、股関節形成不全を発症しないように注意が必要です。成長期には、激しい運動を過度にさせないようにしましょう。
また、肥満も関節に負担をかけるため、成長期に適した量以上のフードを与えないようにします。歩き方に異常を感じたら、早めに動物病院を受診しましょう。
肘関節形成不全:肘関節を形成している上腕骨と2本の前腕骨が噛み合わなくなり、関節に炎症がおこる疾患。股関節形成不全と同様、大型犬の成長期に発症することが多いです。
症状としては、前足を上げたり、体重をかけられないような状態になります。チベタン・マスティフは本来激しい運動を好む犬種ではありませんので、成長期の過度な運動は注意しましょう。
外耳炎:耳の穴から鼓膜までの外耳に炎症が起こる疾患。原因は、細菌、真菌、寄生虫、アレルギーなどさまざまです。チベタン・マスティフは、垂れ耳で長毛なため、耳が蒸れたり汚れが溜まりやすいため発症リスクが高くなります。
耳を気にしていたり、頭を振ったり、ニオイがしてきたら動物病院を受診しましょう。
チベタン・マスティフのしつけ・飼い方
チベタン・マスティフは、近年では温厚になっている犬種ですが、護衛犬としての名残があるため、飼い主はしっかりとリーダーとして認められることが必要です。
しっかりリーダーシップをとって立場を逆転させない
チベタン・マスティフは優秀な番犬であり護衛犬でした。
そのため、独立心が高く、防衛本能がとくに強い犬種です。
飼い主が頼りないと思われた時は、自分がリーダーになろうとしますので、子犬のうちから信頼関係を築き、服従訓練を行わなければなりません。
成犬になるまではゆっくりと時間をかける犬種ですが、それでもすぐに体が大きくコントロールが難しくなるため、子犬を迎え入れたらすぐに訓練を開始しましょう。
被毛のケアは毎日
チベタン・マスティフは、長毛で、チベットの極寒に耐えられる、厚く密に生えた被毛をもっています。
ブラッシングは可能な限り、毎日行います。その際はスリッカーブラシを使うといいでしょう。換毛期には大量の抜け毛が出ますので、1日に2回行ってあげてください。
シャンプーは1ヶ月〜2ヶ月に1回の頻度で行ってください。皮膚が少し弱いため、頻繁にシャンプーをすると、皮膚を痛めてしまう可能性があります。
激しい運動を好まない
チベタン・マスティフは、体力の豊富な犬種ですが、激しい運動を好みません。
長時間かけて、ゆっくり行う運動が適しています。ジャンプをともなったり、急に走るような運動は関節に負担をかけるため控えましょう。
おもちゃなどを引っ張り合う、引き運動などがおすすめです。
散歩は1日2回1時間ずつ涼しい時間帯に行ってあげてください。夏場の散歩は熱中症に十分注意しなければなりません。
チベタン・マスティフの歴史
チベタン・マスティフは古くから、ヒマラヤ遊牧民の作業犬およびチベットの僧院の護衛犬として活躍していた犬種です。
はるか昔に発見された時から、多くの謎に包まれていました。
アリストテレスから、1271年にアジアを訪れたマルコ・ポーロの著書にいたるまで、多くの歴史的文書に記されています。
そこには、この犬種の生まれながらにもつ肉体的、精神的強さとその印象の強さを讃えられる記述が多くあります。
マルコポーロの著書『東方見聞録』には、「ロバのように高く、ライオンのように力強い声、凶暴で大胆」との記述があります。
モンゴル帝国の初代皇帝であるチンギス・ハーンは、3万匹のチベタン・マスティフの軍団を引き連れて西征したといわれています
さらに、ヨーロッパの犬学者たちは、その起源やチべット文化における役割に魅了され、この犬種に集中的に調査を行いました。
チベタン・マスティフが、すべてのマウンテン・ドッグおよびマスティフタイプの祖先犬であると考える学者もいました。
西洋に最初に紹介されたのは1847年にハーディング卿(当時のインド総督)によりヴィクトリア女王に贈られた牡犬でした。
その後1880年代にはエドワード7世(当時の皇太子)が2頭のチベタン・マスティフをイギリスに持ち帰り、1898年にベルリンの動物園で最初の子犬が生まれたと記録に残っています。
チベタン・マスティフの値段価格
チベタン・マスティフは2010年頃から中国で人気が高まり、130万円から1億6000万円もする高価な犬種でした。
とくに富裕層に人気が高く、2014年には最高額の2億円まで暴騰し、世界一高価な犬と呼ばれ、「大獅子頭型」というライオンのように見える、首周りに飾り毛があるタイプが好まれました。
しかし、2013年頃から、不十分なしつけによる事故が頻発し、人気が失墜、価格が暴落します。
2016年ころは買い手がつかなくなり、捨てられるチベタン・マスティフが増え社会的問題にもなっています。
日本にいるチベタン・マスティフは、純血ではないことが多く、たてがみのない「虎型」といわれるタイプになります。ブリーダーのかずも大変限られており値段も不明です。
また、チベタン・マスティフの発情期は年に1回のみであることから、出産件数が少なく、購入には時間がかかることが予想されます。
日本のチベタン・マスティフは、原産地の個体と比較すると、さらに穏やかでペットとして飼育しやすく改良されています。
しかし、この犬種の大きな体と強い意志をトレーニングできる環境や体力と知識が、飼い主に求められますので、十分に検討の上迎え入れるようにしましょう。